”のぼるちゃん”ってどんな人?
50代介護士のつぶやき

5口目の沈黙。彼女が守り抜いたもの。

teruhamajide50

これを書いたのはもうずっと以前のこと。今まで投稿できなかったブログです。今日はふとしたきっかけで、読み見返してみました。今はもう居ない彼女ですが、懸命に生きておられた姿を思い出し、私ももっと頑張らねばと気持ちを切り替え今回、公開することとしました。

介護の現場に身を置いて16年。 ベテランと呼ばれる年齢になっても、私はいまだ、絶対的な正解がわからず、思い悩んでいる。

ある利用者が、今、自らの意志で人生の幕を引こうとしている。 彼女はいつも凛とした自尊心の高い方で、若い頃の苦労や、ご主人との間の長い歴史を抱えて生きてこられた。今は毎日、熱心に通ってこられるご主人の献身を、感謝しながらもどこか冷徹に見つめている節もあった。

ずっと言いたいことを飲み込み、自分を律して生きてこられた彼女にとって、体の自由を奪われていく過程はどれほど残酷だったろう。寝返りもできず、誰かの助けがなければ生きられない日々。 その中で、彼女は、食事も水分も、命を繋ぐ点滴さえも、強い意志で拒絶した。

この2日間は何も食べておらず、水分も頑なに拒んでいる。夜勤の私は、祈るような思いで声をかけた。「お茶、少しだけ、飲みませんか?」 すると、彼女はかすかな声で「飲むわ」と応えてくれた。

スプーンを彼女の唇へ運ぶ。 1口、2口、3口……驚くほどスムーズに、彼女はそれを受け入れてくれた。「ああ、喉が渇いておられたんだな」と、私の心に小さな灯がともる。彼女は「飲みたいんだけど、吐き気がするから……」と、自分の体のままならなさを静かに言葉にされていた。

けれど、運命の5口目。 スプーンを引いた直後、彼女の頬が不自然に膨らみ、喉の奥から「ウッ」という音が聞こえた。 「吐き出していいよ。」 咄嗟に声をかけたが、彼女は首を振って拒んだ。必死に嘔気に堪え、飲み込んだ後に彼女が絞り出した言葉は、 「大丈夫」 の一言だった。

以前、彼女はこんな風に言っていた。 「私なんか、生きてるだけで人に迷惑かけてるんだもん。なんにもせずにただ食べて寝てるだけ。文句なんか言えないよ。」

人に迷惑をかけたくない。ただ、それだけのこと。 でも、その凄まじいまでの気高さを前に、私は言葉を失った。 「しばらくこのままにしてて」 そう言われ、私は嘔気が残っているであろう彼女の手にナースコールを握らせ、ベッドの角度を上げたまま、静かに部屋を後にした。

スムーズに見えたあの4口も、本当は無理をして飲んでくれたのではないか。 食事の拒絶も、わがままではなく、体が食事を受け付けなくなった彼女なりの「最後の意思表示」だったのではないか。 「少しでも食べないと」という私たちの声掛けは、彼女を追い詰めてはいなかったか。

明日は休み。明後日も無事でいてほしいと願うのは、私のエゴかもしれない。 この複雑な気持ちに、いつまで経っても慣れることはできない。 けれど、一人の人間の「最期の抵抗」に触れ、共に震えるこの胸の痛みが、私の介護の原点なのだと思う。

ABOUT ME
のぼるちゃん
のぼるちゃん
始めまして、のぼるちゃんです😊 名前はちょっとオジサンっぽいけど、実は50代のシングル女性、バツ2。 娘ふたりとフェレット1匹と、にぎやかに暮らしています🐾 20歳の頃、パチンコ屋バイト中についた謎のあだ名「のぼるちゃん」。 その響きがなんだか今の自分にも合ってる気がして、再登場させました😂 忙しさで心も体も疲れきっていたけど、今はホットヨガとブログで少しずつ再スタート中🌱 しんどかったことも、モヤモヤも、ぜんぶ等身大で綴っています✨
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